2015年7月23日木曜日

【創作】記憶喪失友の会

作者:django

 ようこそ、ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらのお席へ。そうですな、1テーブルに3人から6人ほどでお集まりいただくのが、よろしいかと。
 当“記憶喪失友の会”は文字通り、記憶喪失を互いに協力して楽しもうではないかという主旨で……お飲み物はいかがいたしましょう? なんなりとご注文を。お預かりしたお召し物やお鞄は、お帰りの際には必ずクロークにてお受け取りください。
 自分が何者なのかわからない! これは稀有な経験にございます。
 古今東西の小説に、映画にと、様々な記憶喪失者が描かれてまいりましたが、ああした物語のヒーローやヒロインの悲壮にして劇的なる気分は、紳士淑女の皆様方がいかに富を積み、その地位と名声を駆使なさいましょうとも、なかなかに味わうことが難しゅうございます。諸賢の著した文献によりますれば、一口に記憶喪失と申しましても、ごくごく一部の記憶が失われる――それもご本人自身から縁遠いものほど喪失されることが一般で、お話に描かれるような「名前も含めて自分が丸切り思い出せぬ」という事態はめったにお目にかかれない、とか。
 かように、完璧なる記憶喪失とは得難きもの。水を張った洗面器に顔を漬け酸欠になってみる、壁におつむを強く打ちつけ大脳にショックを与える等々ごときでは、再現のしようもありませぬ。
 おお……いかにすれば、あの小説、あの映画の主人公のごとき「私は誰?」を玩味できましょうや?
 そうした紳士淑女の切望にお応えするのが、私ども“記憶喪失友の会”にございます。僭越ながら当会独自の手法をば、皆様方にご提供し、ほんのわずかなひとときではございますが、完璧なる記憶喪失者として振る舞う妙味をご堪能いただけますれば、私どもの幸いに存じます。お飲み物は? よろしゅうございますか? ではいつでもお申し付けを。

~準備~


 それではテーブル上にご注目を。
 皆様方それぞれのお飲み物と、そして筆記用具と紙がございますな? 紙はお名刺やトランプほどの大きさがあれば十分、もし見当たらなければご用意させていただきますので、私めにお知らせを。少なくとも1人に1枚ずつ、人数分の枚数が必要。差し支えなければ、どなたかお手持ちの手帳やメモ帳から破り取った紙でもけっこう。
 さて、皆様には記憶喪失への準備として、それぞれ自分の紙に、この場にはおられぬ誰かの名前をお書きいただきます。
 誰でもよろしゅうございます。が、できますればテーブルを囲む他のお仲間方も皆ご存知と思われる、有名人や著名人がよろしいかと。その方がご存命か、それともすでにお亡くなりかは問いませぬ。架空の人物でもけっこう。名前は大きくはっきりとお書きになってくださいませ。そして今、紙にお書きになられた名前は他の方々には秘密になさいますように。
 他の方々に書いたものを見せない、他の方々の書いたものを見ない。そして書いた名前を口外せず、他の方々にも尋ねないとお約束ください。
 お書きになりましたら、その紙は伏せてご自分の前に置き、テーブルを囲む方々全員がお書き終えになりましたら、次をご説明いたします。


 ……皆様、お書きになられたようですな。
 では、それぞれお書きになって置いた紙を伏せたまま、テーブル中央へとお出しください。そうそう。よろしゅうございます。そしてご自分が書いたものではない紙を1つお選びになり、そのままお手元に。あらかじめ紙の色がお1人お1人が違うものをお使いになられると、混乱せずに便利ですな。
 まだその紙に書かれた名前を見てはなりませぬ!
 どうぞ紙はそのまま、そのままに。
 これで記憶喪失への準備は整いました。いよいよお楽しみの時間……ですがシェフによりますと、本日は「よい鴨が手に入った」由。お申し出くだされば、会の後のディナーも承りますので、いつでもお気兼ねなくお伝えを。

~記憶喪失者の嘆き~


 テーブルの皆様方のどなたか――そうですな、最も記憶喪失を渇望なさっておられる方が最適かと――が最初の記憶喪失者におなりになる。
 その方は、絶対に書かれた名前をご覧にならないように注意しつつ、自分の前の紙を手にし、片手でおでこにその紙を貼り付け、そのまま指で押さえます。ちょうど頭痛に悩まされて指をおでこに添え、困っているような、そんなお姿になりますな。そしてその指先とおでこの間には、名前の書いてある紙が挟まっておられる。書かれた名前が他の人には見える向きにしてくださいませ。
 紙に書かれた名前がご自身には見えず、他の方々には見える。それが肝要。うまくゆかぬ時は、隣の席の方が手伝って差し上げてくださいませ。
 実は、おでこに指で貼った紙に書かれた名前、それがその方が忘れてしまわれたご本人自身、その方の正体にございます! その名前をご本人は知りませぬ。見ることもできませぬ。まったくの記憶喪失と申せましょう。
 なんとなれば、どうぞご存分に、額に指を当てたお姿のまま、記憶が失われていることを大いに悲憤慷慨し、感情を込めてお仲間たちにお訴えください。
「だめだ……どうしても思い出せない!」
「わたしはいったい、誰なの!?」
「いつの間にかここにいたんだ。僕は、何者なんだろう?」
 よろしゅうございます。実に、よろしゅうございます!
 こうした嘆きをお聞きになられた、その左隣にお座りの方には、誠意と慈善の心を発揮して、その方が何者なのかをやんわりと伝える、記憶回復の一助となっていただきます。
 他の方の記憶回復の手助けには、紳士淑女として“4つのマナー”がございます。
 このマナーは、ぜひともお守りになってくださいませ。


一、紙に書かれた名前を直接口にしない
一、「きっと○○だと思う」のような推量の言葉で
一、「▲▲なので、だから」と、その人の服装や持ち物、見た目を理由に挙げる
一、嘘をついてはならない


 その方の名前は紙に書かれて見えるようになっております。しかし、その名前を他の方々はけっして口にしてはなりません! それをすぐに相手に伝えてしまっては、せっかくの記憶喪失が瞬く間に終わり、ご本人が思い出そうと悪戦苦闘する楽しみを奪ってしまうことになります。手助けは年齢ですとか性別ですとか、職業に通ずるヒントですとかを助言し、やんわりと慎ましく行うのが礼儀でございます。
 しかし、その助言も「キミは医者だ!」等と断定的に押しつけるのはいささか不調法ですな。皆様方は互いを尊重し合い「キミは医者だと思う」「あなたは若い男性に見えるね」「女優ではないかな、きっと」といったふうに、助けを得たお相手にも一考する余地があるようになさるのがよろしいでしょう。
 また、ご自分のお考えを伝えるのに、そう思う理由も挙げないというのでは、それを聞く側も納得しないというのは道理。記憶喪失を嘆くその方をよくご覧になり、その人の服装や所持品、見た目から受ける印象を理由とするのが当会のマナーでございます。
「その長い指からして楽器の演奏をするような気がする」
「明るい色のシャツを着ているから、まだ20歳台だと思うよ」
「その帽子……以前見たアイドルが被っていたような」
「背が高いね。スポーツマンじゃない?」
 いや、お見事ですな。
 沈痛な面持ちで額に手をやり悩む方をお助けになる皆様! まことにうるわしく、感服いたします。
 そうした皆様には言うも余計なことでありましょうが、助言で嘘を伝えるのは厳禁といたします。紳士淑女にあるまじき振る舞いですからな。しかし間違いや思い違いは仕方ないことで、当然禁じたりはいたしません。また、嘘がつけないために、挙げる理由と助言の内容が頓珍漢になることもありえます。「眼鏡をかけているから既婚女性だろう」ですとか、あるいは「その長い髪は企業のトップだと感じる」ですとか。そうなられても特に咎め立てはいたしません。


 最初の記憶喪失者が嘆き、その左隣の方が手助けに一言、助言いたしましたら、次は今まさに助言した方が紙を手に取り、記憶喪失になる番!
 やはり我が身をお嘆きになり、そしてまたその左隣の方が手助けに助言する……これをテーブルを囲む皆様方全員が記憶喪失となるまで続けます。先に記憶喪失になられた方々は、いささかご不便をおかけいたしますが、紙を指でおでこに付けた悩めるお姿のままでいていただくことをご了承願います。ひょっとすると、紙に書かれたお名前が重複する――同じ人物が2人以上、その場におられる、といったことも起こりえますが、当会としてはそれは問題になりませぬ。ですが、できればそれは避けたいとのことでありますれば、皆様方が最初にお書きになる紙を3枚ずつにして、それぞれに別の名前を書くようにし、その上で他の方の書いたものから1枚お選びになるようになさるのがよろしいでしょう。確率ゼロではありませぬが、重複しにくくなります。
 テーブルで最後の記憶喪失者が嘆き、その左にお座りの最初の記憶喪失者だった方が助言を一言お与えになりますれば、次をご説明いたします。

~記憶回復に向けて~


 お飲み物をお注ぎいたしましょうか? いつでもお申し付けを。
 さて、皆様方は晴れて記憶喪失の身の上となり、御自らが何者なのかを思い出そうとしておられる。
 おそらく、先の助言1つでは足りぬことでありましょう!
 しからばこれから4分間、ご歓談いただき、相互扶助の精神でお互いの記憶回復に努めていただきたく存じます。紙を指でおでこに付けたまま、訴え、質問し、それに答え、ご自身が何者なのかを探ってゆくのでございます。時計やタイマーのご準備を。
 この歓談では、先に示した“4つのマナー”を引き続きお守りください。
 名前を口にせず、断定的に言わず、身なりや格好、持ち物を理由に挙げ、嘘はつかない。これらを守って礼儀正しくであれば、どのような質問も回答も、助言も思うまま。順番をお気になさらず、助言を求める相手も左隣の方に限らず誰にでも、自由闊達にご歓談いただきたく存じます。そうそう、ご歓談中に記憶が蘇ったという方、その方はまだこの段階では、思い出したご自身の名もまた口には出しませぬように。興が削がれますからな。
 賢明なる紳士淑女の皆様方は、会話をお楽しみになられるうち次第に、次第にご自身の記憶を蘇らせていくことでしょう。時間は人数に合わせて調整なさいませ。誰も彼も一向にわからぬといった塩梅でしたら延長を、多くの方が早期に回復なさるようでしたら、早めに切り上げてもかまいませぬ。
 そのご様子ですと、もうかなり真相に近づいておられるようですな?
 けっこう、誠にけっこうでございます。
 雲をつかむようでいっこうにわからない?
 それもけっこう。なんとなれば、これは記憶喪失を楽しむ会にございますれば!


 ……4分経ちましたな。
 そろそろ皆様方には、ご自身を思い出していただく頃合いにございます。
 空にかかる暗雲が晴れ、真実の光が差し込み――ああ、皆様方はご自身が何者かを思い出されました!
 どなたからでもけっこうです。思い出したご自身の名前を感激とともに告げ、そして、うっとおしく指で押さえていた紙をテーブルに置きます。
 この際も注意して、紙は慎重に伏せて置くようにし、まだそこに書かれた名前を見ないようにします。また、他の方々も書かれた名前を口にしたり、思い出された名前とそれが同じか、違うかについても触れてはなりません。
「そうよ、わたしはビヨンセ!」
「まさか、僕が野口英世だなんて」
「俺はアントニオ猪木だったんだな……」
 残念ながら当会がご提供する記憶喪失の時間は、4分間の歓談の終了とともに消えてしまいます。助言等からぼんやりとしか思い出せなかった方も、これはというご自身の名前を思い出し、挙げていただくことになります。回復したご自身を宣言なさる際には「そうだ、私こそ初の合衆国大統領となったワシントン!」といったように、自らの事績を添えるも趣がありますな。
 皆様方全員が思い出され、紙をテーブルに置きましたら、次が最後になります。

~互いの健闘を讃える~


 おめでとうございます!
 皆様方は自らの記憶を失い、そして互いに助けあってこれを回復いたしました。その礼儀正しくも熱意ある振る舞いに、まさに紳士淑女かくあるべしと、私めも感激しております。
 これよりの2分間ほどは、皆様方はそれぞれに思い出されたご本人として喜び、協力してくれたお仲間の方々に感謝して、互いの健闘を讃えあう時間にございます。これもまた、人数等に合わせて長くも短くもご調整を。もはや“4つのマナー”を守らずともよろしゅうございます。ご自身の記憶を取り戻した、苦難をともに乗り越えた開放感をともに分かちあう時にございます。
 ――ただし、他の方々の前の紙に書かれた名前について、それを皆様はご存知なわけですが、これについて触れてはなりません!
 他の方々が思い出されたというご自身、それは紙に書かれた真実の名前とあっていることも、間違っていることもありえます。
 しかし、この場でそれを告げることは、記憶を回復したと喜ぶ方々に対して、まったく無作法なこと! あっていようと間違っていようと「おめでとう」「よかった」と祝い、皆様方のそれぞれが、それぞれに「思い出した自分」であることを認め合ってご談笑してくださいませ。


 さてさて、とうに2分経ちましたか。
 どうしても気になるようですな?


 よろしゅうございます。しかり、まさにしかり。どうぞ皆様、目の前の紙を表にして、書かれた名前をご確認くださいませ!
 いかがでございましたか?
 思い出されたご自身と、その名前はご一致なさいましたか?
 なさいましたか! それはそれは慶賀の至りにございますな。
 そちらは……違ごうてございましたか。お気落ちなさらず。ままあることにございます。記憶喪失が深ければ、違ったご自身を思い出されるのも不思議ではありませぬ! どうぞ、手助けした他の方々をご非難なさらぬように。その方々もけっして嘘をつかず、最大限に手を差し伸べたのでございますよ?

~閉会まで~


 まだお時間がお許しの方々は、同じテーブルでもう一度、あるいは別のテーブルで新たなお仲間とお集まりになり、何度でも当会での記憶喪失をお楽しみくださいませ。私どもの手法は実に簡単で、もうご説明せずとも、皆様方がご自身たちで自在にご活用できることでしょう。
 お帰りの方々は、クロークにお預けになられたお召し物、お鞄等をお忘れなく!


 お飲み物の追加はいかがですかな?
 それにディナーもご所望とあれば、私めに。
 左様、上等な鴨が入手できているとシェフが申しておりますれば、お気兼ねなく。
 はて、いかがなさいましたか?……はて、私めにございますか? 
 なるほど……いや、しかし……私は……誰でしたでしょうね?

記憶喪失友の会:会則

 本会は、小説や映画の主人公のような名前も思い出せない記憶喪失、及びそこからの回復を楽しむことを主旨に、独自の手法を提供するものである。
 入会に制限はなく、以下に示す手法も会員・非会員の別なく参照、実践でき、内容の再公開や改変もまた自由とする。

【道具】
・メモ用紙(※参加者各人が色違いにできれば便利)
・ペン(※紙の裏に透けない鉛筆がよい)
・タイマー(※なくても問題ない)

【準備】
1.参加者3~6名はテーブルを囲んで座る。
2.各人は紙とペンを取り、紙に他の人もよく知る有名人の名前を大きく記入。
 ※有名人は故人や架空の人物でもかまわない。
 ※書いた名前は他の人に知らせないように。
3.記入した名前が見えないように、紙を裏返してテーブル中央に置く。
 ※各人がそれぞれに別の名前を記入した3枚を提出すると、重複が避けやすい。
4.自分が書いたもの以外の紙を1枚、手元に。
5.取った紙は裏返しのまま、自分の前に置いておく。

【開始・1つ目のヒント】
1.最も記憶喪失願望のある人から始める。
2.自分の前の紙を手に取り、指で名前が他の人に見えるようにおでこに当てる。
 ※自分は記入された名前を見てはならない。
 ※名前が読みづらい位置になっている時は隣の人が直すのを手伝う。
3.おでこの紙に書かれている名前は、その人が名前も忘れてしまった当の本人、正体となる。他の人はその名を口外してはならない。また本人も途中で自分の正体がわかったと思っても、最後に紙を表にする時まで口にはしないこと。
4.おでこに紙を当てたまま、「私は誰なんだろう?」と、左隣の人に嘆く。
5.左隣の人は正体についてヒントを1つ与える。
 ※下の「ヒントの出し方」を守ること。
6.続けて、今度はヒントを出した人が自分の前の紙をおでこに当て、上記と同様にする。
7.一巡して全員がおでこに紙を当て、ヒントを1つ貰った状態になるまで続ける。

【ヒントの出し方】
1.紙に書かれた名前を口にしない
 ※途中で自分の正体を思い出した(気づいた)場合も、それを口に出さないように。
2.「きっと●●だと思う」というような推量の言葉で。
 ※あくまで言葉遣い。正体を知っているのでヒントの内容は正確なものでよい。
3.「▲▲なので、だから」と、その人の服装や持ち物、見た目を理由に挙げる。
 ※おかしな言い方になっても問題ない。「眼鏡をかけているから女性」等。
4.嘘をついてはならない。
 ※単なる間違いは許容される。他の人がその場で訂正してもよい。

【さらなるヒント・記憶回復】
1.4分ほど自由に質疑応答し合い、自分の正体を探る。
2.時間は人数や雰囲気により調整。誰もが五里霧中のようなら延長、時間前にほとんどの参加者が記憶を取り戻した(自分の正体がわかった)ようなら、早めに打ち切るのも可。
3.質問や返答の際には「ヒントの出し方」を守ること。
4.時間が経過した(あるいは質疑応答を打ち切った)ら、その時点で全員が記憶を取り戻したものとする。
5.任意の順で1人ずつ、おでこの紙を自分の前に裏向きに置き、「私は■■な××だったのだ」と、喜びとともに思い出した(探り出した)自分の正体を告げる。
 ※記入した名前を見ない。他の人もその正解・不正解について公言しないこと。
 ※思い出せていなくても、適していそうな有名人の名前を頑張って挙げる。
6.全員が正体を思い出すまで続ける。

【健闘を讃え合う】
1.2分ほど、それぞれが自己申告した正体の人物として語り合い、互いの健闘を讃える。
2.これも人数により時間は調整。早めに打ち切ってもかまわない。
3.他の人の思い出した正体が間違っていても、それを指摘しないこと。歓談中は相手を、その人自身が告げた人物として扱う。
4.時間終了後、それぞれの前に置かれた紙を表にし、実際の正体を確認する。

以上

※「記憶喪失友の会」PDFファイルは→こちら 「記憶喪失友の会:会則」PDFファイルは→こちら
「記憶喪失友の会」TEXTファイルは→こちら 「記憶喪失友の会:会則」TEXTファイルは→こちら


報告 みちのく未来基金へ寄付を行いました

2015/4/5に Game Poem Party を行いました。この際、実験的な企画として参加者1名につき50円をみちのく未来基金に寄付いたしました。領収書が届きましたので、公開させていただきます。(主催がうっかり領収書を汚してしまいました。画像が汚くて申し訳ありません)




実際の参加者がすくなかったため、主催者がいくらか追加して寄付を行いました。(なお、寄付金は主催者側の持ち出しです。もらった会場費は寄付金に充てていません)
みちのく未来基金は震災遺児に返済不要の奨学金を提供する団体です。
http://michinoku-mirai.org/index.html

2015年5月20日水曜日

【和訳】アーキペラゴ 第3版 Archipelago III


作者:Matthijs Holter
出典:Nørwegian Style「Archipelago III !」https://norwegianstyle.wordpress.com/2012/09/20/archipelago-iii/
訳:django

『アーキペラゴ』は、各プレイヤーが物語の主要なキャラクターをコントロールするストーリー/ロールプレイングゲームである。プレイヤーは手番に自身のキャラクターの物語の一部を語って演出し、他のプレイヤーたちとの対話を通してそれに影響を及ぼしつつ、物語を自ら選択した運命の分岐点へと導いていく。

 このゲームはMatthijs Holter氏のデザインしたロールプレイングゲームの2015年5月現在の最新版(2012年9月公開)です。

 プレイシステムのジャンルとしては、各参加者が自分の動かすキャラクター(登場人物)を持つRPGです。ただし、RPGでは一般的な司会進行役を務めるゲームマスターは必要としません。シナリオ等、事前の準備もほぼ不要で、数値を用いたルールもありません。GMレス(ゲームマスターなし)、PREPレス(事前準備なし)、フリーフォーム(数値等による細かなルールなし、即興でお話することが中心)のストーリーゲームと言えます。

 ゲームで使う物語の舞台、世界も自由です。
 作者は「ル=グインの『ゲド戦記』のようなストーリー」をプレイしたいと望み、この『アーキペラゴ』(※列島、という意味です)をデザインしましたが、キャラクターたちの活躍する世界はファンタジーでもSFでも、現代の地球のどこかでも、好きなものを提案できます。
 実際に、このゲームのシステムに触発されたゲームデザイナーたちは、独自の物語世界とともにルール細部を追加・修正して新たなゲームを作り、販売したり公開したりもしています。

・『Last Train Out of Warsaw』:1939年、ドイツによる包囲前夜のワルシャワ
・『Love in the Time of Seið』:北欧神話の王国とそこに住む人々
 (※上記はいずれもJason Morningstar氏による)
・『I Wanna Be a Stormtrooper』:スターウォーズ世界で遊ぶためのプレイセット(Anders Nygaard氏による
・『Anarktica:Fate of Heroes』:スチームパンクな1899年の欧州と南極(※Richard Williams氏による

 冊子等の形にまとまったものだけでも上記のような例があり、各地で遊ばれたグループ毎の物語背景をリサーチしたら、とてつもないバリエーションとなることでしょう。『アーキペラゴ』本体も英語だけでなく、すでにフランス語、スペイン語に翻訳済です。
(※上記の4作品は2009年公開の『アーキペラゴ 第2版』準拠ですが、2版と3版のルール変更点はわずかな追加・削除が主なので問題なく参考になります。プレイセットである『I Wanna Be a Stormtrooper』を除いた3つは独立したゲームで固有のルールも多く含み、それ単体でプレイ可能な形になっています

『アーキペラゴ』はサイコロ等で数値を扱うルールはない代わりに、フェイトカードとレゾリューションカードというカードをプレイに用います。元の英語版にはその画像データも収録されており、印刷して自作できるようになっていましたが、今回の和訳ではそのデータの画像作成は見送りました。
 カードの内容はすべてルール冊子末尾にリストとして記述されており、その一つ一つに番号を振り、必要な時はその番号を書いた紙を無作為に1枚引く、というやり方で問題なくプレイ可能です。フェイトカードは12種、レゾリューションカードは16種あるので、その内容それぞれにリストの上から1~12、そして1~16と番号をつけ、情報カード等の紙に各番号を書いて12枚、16枚のカードデッキを即席で用意すればいいわけです。
 ですが、プレイでの利便性だけでなく、ゲームの雰囲気においても「専用カードがある」というのは大事なことでもありますから、和訳カードのデータも作成し本ブログにアップすることを考えたいと思います。

 ともあれ、ノルウェー発のフリーフォームなRPG『アーキペラゴ』は、国境を越えて注目されてきただけのことはある、さまざまな工夫や、この種のゲームを楽しむための示唆にあふれています。このゲームそのものがプレイ意欲をそそられる作品であると同時に、他のRPG等にも流用可能なテクニックも得られる良質なテキストです。
 拙い訳ではありますが、どうぞ御覧ください。

※PDFファイルは→こちら

2015年4月1日水曜日

【和訳】やることなすことバカばっか EVERYTHING YOU DO IS STUPID

作者:Marc Majcher
出典:『Twenty Four Game Poems』収録、およびGizmet Game Poems「Game Poem 5」http://gamepoems.gizmet.com/2010/02/game-poem-5-everything-you-do-is-stupid/
訳:django

 プレイヤーたちは集まり、そのうち1人がタイマーを15分にセットする。タイマーがスタートしたら、セットした人以外のプレイヤーの誰かは、そのタイマーを使うことがどれほど馬鹿げたことなのかを語らなくてはならない。キッチンタイマーが使用されたなら、今は21世紀であり、もっとデジタルな物があるだろうと指摘し、アイフォンが使われたなら、いかにも流行かぶれの選択で、アップルがどれほど下らないかをあげつらう。とにかくなんであれ、それは愚かなことだと相手に知らせなくてはならない。タイマーをセットしたプレイヤーは、自分のしたことは馬鹿げていたと口頭で認め、そんなタイマーをセットするのは馬鹿だ、と主張した人に全面的に賛成する。

 そうしたタイマーをセットすることの馬鹿らしさが受け入れられた後、本格的にゲームは開始される。タイマーをセットした人に、そのようなタイマーをセットすることがいかに馬鹿げているかを語った人は、できる限り間を開けず、自身の退屈な一日を語り始める。するとすぐにも、その人の日々の行いの何かを馬鹿らしいと訴えたくなる――あなたたちが行うことはすべて馬鹿げているのだから、その衝動はいとも容易に得られる――だろう。あなたは、なぜそれが愚かなことなのか、そしてそれをよりよくできる方法や、それをするべきではなかった理由を的確に述べなくてはならない。これは、それが愚かなわけを微に入り細を穿って語る必要はなく、大雑把に却下の意を示す(「まあ、君がどう歯を磨くかは知らない、ぱっと思い浮かばないけどさ」とか言いつつ)か、そもそもそんなことをするのは無意味だと声を上げるだけでもよい。

「なんて馬鹿らしい。電動歯ブラシを持ってないの? ヒッピーか何かなの?」

「マジで、オーガニックの歯磨き粉を使ってないの? どうしてそんなアホなまねを? 自分の星の巡りを呪ったほうがいいね」

「毎日歯を磨くって馬鹿馬鹿しいだろ。人類は歯を磨くことなく、何千年も存続したんだからな!」

 誰かが、他の人が日頃行っていることを馬鹿だ―あなたたちが行うことはすべて馬鹿げているのだから、実際にそうなのだ――と指摘したら、その指摘した人は自分の一日を、前の人が語った事柄の時点から話し始める。直前が歯磨きの話(「メーカーを儲けさせてるだけって、わかってやってる?」)だったとしたら、その馬鹿さ加減を指摘した人は、シャワー(「そのために早起きするのかよ――夜、風呂に入ったばかりだってのに」)について、または朝食(「自分でコーヒーを淹れる? なんだそれ、スタバに行けよ!」)について、あるいは車での通勤(「まだ車乗ってんの? ガス代が馬鹿にならねえよ。オマエ、今はどこでも自転車だろうが」)について語り出す。

 あなたは、その人がしたことは愚かだ――あなたたちのすることは*すべて*馬鹿げているということを思い出そう――と当の本人に告げる時、その内容や言い方は真面目でも、ハチャメチャでも、根拠十分でも、あるいは薄弱でも、まったくかまわない。ルールはとにかく、話から馬鹿なことを選び、それは馬鹿だと告げ、なぜ馬鹿なのかを述べ、しかる後に自分の馬鹿げた一日を語り始めるというだけである。また、相手が何を、どうしたのが馬鹿げているのかを指摘するようにし、その語られた行いにどれほど腹が立ったとしても、相手自身を馬鹿だとは言ってはいけない。ここで求められているのは、相手のとった行動の欠点を示すことであって、相手自身が余人に比して馬鹿だと主張することではないのだ。

 15分後、鳴ったタイマーをオフにし、必要があれば、まだ途中になっている話を続け、その馬鹿らしさの指摘までを終え、区切りのよいところでプレイを停止する。話が終わって一瞬の後、誰かが「うわ、なんて馬鹿なゲームだ」と口にする。そして、みんな何か他のことをしに行く。



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2015年3月29日日曜日

2015/4/5 Game Poem Party の お知らせ

ゲームポエムを初めて遊ぶ人のための会です! 
申込はこちらから。

ゲームポエムは、ゲームのような詩のようなちょっと不思議な遊びです。
勝ち負けはありません。みんなでお話を作ったり、演じたり、不思議な体験をすることを目的にしています。特定のシーンやムード、何かしらを掘り下げるような体験をして遊びます。

例えば……

『光より遅く』
手紙を交換する遊びです。あなたは旅人です。別の旅人仲間に手紙を送ります。仲間同士の距離はどんどん離れていきます。それにしたがって、手紙が届くのにどんどん時間がかかるようになります。
どこを旅しているのかはその場で決めます。未来の宇宙で銀河を旅しているのか、大航海時代に船に乗っているのか、シルクロードをキャラバンで横断しているのか……。

『リプライでアドバイス』
伝言ゲームです。あなたの書いた投稿にどんどん無責任な返信がついていきます。
「明日テストなんだけどぜんぜん勉強してない! 山田」
「@山田 一夜漬けでがんばって! 飯野」
「@山田 漬物は浅漬けが美味しいよね 植田」
2人目以降の人は最初の人の投稿を読みません。直前の投稿だけを読みます。
返信は伝言ゲームのようにどんどんずれたものになっていきます。

今回は初めての人向けの会です。
これまでゲームポエムを知らなかった人、ルールを読んでみたけどやり方がよくわから買った人向けの会です。
気おくれせずに遊びに来てくださいね!(*^_^*)

11:00開場 20:00閉会
完全予約制 飛び入りなし 入退場自由
筆記用具をお持ちください。書いたり消したりできるものをお願いします。

ゲームは短いもので15分、長いもので60分程度です。
遠方のかたは無理のない時間にお越し下さい。


心身に障害のある方、家族連れの方など、不安のある方、配慮の必要な方は個別にご相談ください。
すべてに対応はできないと思いますが、可能な範囲で対応させていただきます。

なお、会場費負担金としてお一人様500円お願いいたします。

実験的な企画として、 公益財団法人みちのく未来基金 への寄付を考えています。
みちのく未来基金は震災遺児に返済不要の奨学金を提供する団体です。
http://michinoku-mirai.org/index.html
参加者1名につき50円をみちのく未来基金に寄付させていただきます。
(みなさんから会場費としていただいたお金は寄付に使いません。寄付金は主催者の持ちだしになります) 
申込はこちらから。

開催概要

日時2015年04月05日(11:00-20:00)
入退場自由 完全予約制
開催場所川崎市平和館 第1・第2会議室合併
(〒211-0021 神奈川県川崎市中原区木月住吉町33−1)
参加費500円(税込)
定員16人(先着順)
申し込み開始2015年03月23日 21時00分から
主催




2015年3月15日日曜日

【和訳】すべての色は消え ALL THE COLOR HAS GONE

作者:Marc Majcher
出典:『Twenty Four Game Poems』収録、およびGizmet Game Poems「Game Poem 2」http://gamepoems.gizmet.com/2010/02/game-poem-2-all-the-color-has-gone/
訳:django

 コインを2枚用意し、数名のプレイヤーは席につく。最も明るい色の服を着ている人が開始プレイヤーとなり、強い記憶を持っている場所に名前をつける。名をつけたらコ インを1枚取り、もう1枚を他の誰かに渡す。続けて開始プレイヤーはごく簡単にその記憶について語り始め、名づけた場所を説明する。その説明には、色を表す言葉を使ってはならない。1、2分ほど経過後、コインを渡されたプレイヤーは、開始プレイヤーの説明が特に気になる事柄にさしかかるまで待ち、そこに至ったら「それは何色?」と尋ねて説明を終了させる。そして両プレイヤーとも自分の取ったコインを弾く。

 2枚のコインの表裏が揃わなかった場合、開始プレイヤーは静止して瞬きし、困惑した様子で「わからない」と答えなくてはならない。そしてまだ色を尋ねていないプレイ ヤーに自分のコインを渡す。2枚のコインの表裏が一致した場合、瞬きし、深呼吸して、その色を1語か2語で答え、上記と同様に他のプレイヤーにコインを渡す。「何色?」 と尋ねたプレイヤーは、開始プレイヤーがそうしたように、もう1枚のコインを持つ人が色を尋ねてくるまで、自身の記憶とその場所について説明し続ける。コインは再び弾かれ、プレイヤーは先に記したようにまたその結果を反映する。そして尋ねられた人は コインを、まだ色を尋ねていない人に渡す。誰もがそれぞれ一回ずつ、色を尋ねられるまでこれを繰り返す。

 全プレイヤーが、色を回答した、しないにかかわらず、自身の記憶の場所を説明したら、その時コインを持っている2人はさらにもう一度それを弾き、場の中央に置く。

 コインの裏表が一致していた場合、色を尋ねられて「知らない」と答えたプレイヤーの場所にも色がつけられる。該当するプレイヤーはそれぞれ順に、記憶の場所の中で鮮明、鮮やかな色彩を帯びた1要素について、1文あるいは2文で語らなくてはならない。すべてのプレイヤーの場所に名前と色がついた後、いったん小休止し、そして開始プレイヤーから順に各プレイヤーは、自分の色を声に出して告げていく。

 コインの表裏が揃わなかった場合、色を尋ねられて答えた人たちから、その色は消え去る。該当するプレイヤーはそれぞれ順に、記憶の場所の中のその事物がどのように色あせていったかを、1文あるいは2文で語らなくてはならない。すべてのプレイヤーの場所から色が消失した後、いったん小休止し、そして開始プレイヤーから順に各プレイヤーは、記憶の中で感じたその色は、その場所にあったはずだと静かに告げていく。

 あなたの色を覚えておき、そして次にプレイする時まで、心に留めておく。その時、あなたが思い出すのは別の色かもしれないが。

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2015年2月20日金曜日

【和訳】フィクション Fiction


作者:Elin Nilsen & Ole Peder Giaever
出典:Nørwegian Style「Fiction – a flexible freeform framework」https://norwegianstyle.wordpress.com/2013/08/21/fiction-a-flexible-freeform-framework/
訳:django


『フィクション』はさまざまな人数のプレイヤーに対応する、協力、即興的なフリーフォームゲームです。このゲームでは、プレイヤーがみんなで一緒に遊んでみたいゲームを描き出し、そしてプレイします!(※本文冒頭より)


 ここで紹介する『フィクション』は、本ブログに掲載しているゲームポエムと同様に、単体でも遊べるものです。そのルールの狙いは、
「みんなが集まったその場で、これからプレイするゲームを組み立てて実行する」
 ことにあります。
 これを作者たちは“フレキシブル・フリーフォーム・フレームワーク”と読んでいます。ゲームを作って遊ぶのに自在に使える枠組み、土台。『フィクション』はデザインすることも楽しみに含んだ、ツールでありゲームでもあるのです。

●フリーフォームって何?


 フリーフォームゲームを作って遊ぶ――そもそも「フリーフォーム」ってなんでしょうか?
 ロールプレイングゲームやストーリーゲームの一ジャンル、と思っていただくと話が早いかもしれません。フリーフォームはそれらの中でも「ルールや準備、決まり事が少ない」「即興で演技したり、場面や物語を演出したりを最重要視する」ゲームを指しています。実はゲームポエムもまたフリーフォームの範疇に入ります。フリーフォームで特に「ルール記述量が極少」で「プレイされる場面等の対象が小さく限定的」なものが“ポエム”であるとよく言われます。
 このジャンルに属する(とみなされる)ゲームは即興演劇やLARP(ライブアクションロールプレイ)の持つテクニックや知見から強く影響を受けており、プレイヤーたちは事細かなルールに基づくのではなく、大まかな約束事とコミュニケーションによる協力で、魅力的な物語の登場人物に扮してみたり、物語を即興で演出したりすることを試みます。


●どんなゲームができる?


『フィクション』をプレイすると、いろいろなテーマとルールを持つフリーフォームゲームが作れて、遊べます。この記事の末尾にあるリンクからダウンロードしてみてください(※6ページでレイアウト済みのPDFとTXT)。ルールの最後には『フィクション』で作られ、遊ばれたゲームの例が載っており、それらをそのまま遊ぶこともできます。
「マカロニ・ウェスタン」は西部劇、「ヴェガス・ウェディング」はシチュエーションコメディ、「恐怖の島」はサバイバルホラーです。それぞれのゲームでプレイヤーは正義の保安官、花嫁に突然「ノー!」と言われた花婿、バックパッカーの若者等に扮し、わずかな約束事に基づき即興で場面を演じ、演出し、物語を協力して作っていくことになります。

●大切なこと


 ここに『フィクション』を取り上げたのは、もちろんこれが興味深いゲームで、しかもゲームポエムともダイレクトに関連するジャンルであるからなのですが、もう一つ、大切なことがあります。
 ルールブックの2ページ目「基本原則」の中で、“カット”と“ブレーク”というセーフ(セーフティ)ワードの使用について触れられています。プレイヤーは、自分がプレイ中に居心地が悪くなりそう、不快になりそうだと予感したら「ブレーク!」と、限界に達したと感じたら「カット!」と発言して、身を守ったり危機から脱したりすることが可能とされます。誰かがプレイ中にセーフワードを発したら、他の人たちはその解決、解消を再優先にしなくてはならないと明記されています。
 フリーフォームは「その場の思いつきの自由な発言」が飛び交う場になり、たとえその確率は低くとも、誰かの、あるいは互いの気分を害する言葉の応酬にはならないと確約できません。また『フィクション』で作れるゲームは演劇のようにプレイヤーが動き回り、互いの体に触れることも想定していますから、なおのことセーフワードは重要です。複数人が集まって自由に発言してプレイするということの、素晴らしさの裏側にあるリスク、そしてそのために起きる問題への考え方と予防については、本ブログの「安全性の確保について」もぜひお読みください→こちら

 何を、どこまで語っていいのか? 他人の体への接触はどのあたりまで許されるのか? それらを事前に合意しておくこと、また、事前段階では本人も気づいていない“危険なポイント”もあるのが当然で、プレイ中に突然「これは自分には耐えられない」と自覚できることもありますから、いざという時にセーフワードで脱出できるようにしておくのが大切なのです。おそらくこれは、即興演劇やLARPを楽しんでいる人たち、または各種ワークショップでファシリテーターを務めていらっしゃる方々には周知のことと思われます。
 しかし、一般にゲームとは楽しいもので、かつこの種のゲームは「みんなで協力して」という前提があるだけに、問題点が死角に入りやすく、危機が起きていても長く放置し続けることになったり、それが顕在化した時に大慌てになってしまったり、ということはありえます。そうなったら楽しいはずのゲームが、とたんにつまらない、苦痛なものになってしまいます!
 ほんの少し、意識すべきところを意識し、先人の知恵を借りて工夫するだけで、ゲームはよりセーフティで、もっと身構えずリラックスして楽しめるものになる――『フィクション』はそうした意識の持ち方や、具体的にどうするべきか? を作者の側からルールとして提案した見事な一例であると考えます。


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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
ゲームポエム・アーカイブス django 訳『フィクション Fiction』はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
https://www.dropbox.com/s/tw1zwf7t958z0up/fiction.pdf?dl=0にある作品に基づいている。

2015年2月11日水曜日

【創作】私たちは愛し合う

作者:齋藤路恵


何人もの人と愛を交わし合い、ときに相手を傷つけるゲームです。

用意するもの 3人以上の人
時間 10分 または 一生

この世界において「愛する」とは相手の喉をつかむことです。
この世界では「憎む」こともまた相手の喉をつかむ形で表現されます。

時間が始まったら、近くにいる人に話しかけてください。
誰でもかまいません。
遠くの人でもいいです。

相手に話しかけて、自分との共通点を3つ見つけてください。
とても簡単なはずです。
「目が二つ。鼻が一つ。口が一つ」
もう見つかりました!

見つかったら、愛し合う条件が整いました。
条件さえ揃えば人は自動的に愛を感じます。

ここからは声を発してはいけません。
お互いに手を伸ばして、相手の喉をつかむ準備をしてください。
相手の目を見て、視線だけで喉をつかむタイミングを計ってください。
つかんだら、5秒間、そのままでいてください。
あなたたちは愛し合いました。

あなたは愛を拒むこともできます。
「これは口ではないのです」
そう言ってもかまいません。
相手がどれほど望もうと、あなたはそれを拒絶することができます。

愛を交わしたらそのまま別れてください。
そして、別の人に話しかけ、愛を交わしてください。

互いが望むなら、愛の誓いをすることもできます。
愛の誓いはその場の全員を証人にして行われます。
その場の全員に声をかけ、全員が見守る中で愛を交わしてください。
これで、誓いは成立です。

愛は3人以上で交わすこともできます。
愛の誓いも同様です。
3人以上で交互に喉をつかみあってください。

誓いを立てた後もこれまでと同じように、他の人に話しかけてください。
(話しかけずに済ますことはできません。必ず他の人に話しかけてください)
ただし、共通点が見つかっても、相手の喉をつかむことはできません。
共通点が見つかったら、自分で自分の喉をつかんでください。……できれば、息が少し苦しくなるくらいの強さで。
相手は誓いを立てた者の手の上に手を重ねるか、喉をつかむこと自体をあきらめてください。
誓いを立てた者は他の者に喉を触らせてはいけません。

誓いは破ることができます。
誓いを破るときは自身の手を完全に下ろし、相手に一方的に喉を触らせてください。この時は少し長め、10秒くらい、相手に喉をつかませてください。

相手に喉をつかませたら、誓いを立てた相手に裏切りを告げにいきます。
誓いを立てた相手に、自分と誓い合った相手の相違点を3つ告げてください。
一方的にまくし立てるのでかまいません。
誓いは片側から一方的に破棄できます。

10分後、この世界は終了します。
最後のメッセージを交わします。
最後に愛を交わした相手のところに行ってください。
もしかしたら、相手のところには他の人も来ているかもしれません。
仕方ありません。
順番に相手に別れを告げてください。

もし、あなたにどうしても会いたい人がいる場合、最後の人を裏切って他の人のところに行ってもかまいません。

最後のメッセージは実際には相手に触れずに行います。
これまでと同じように相手の目を見つめてください。それから、喉をつかむ代わりに空をつかんでください。
そこに相手の喉があるかのように、ていねいに、リアルにつかんでください。

このときに首の骨を折ったり、喉を握りつぶしたりしてもかまいません。
あるいは、指で喉を優しく撫でたり、くすぐったりするのでもかまいません。
あなたが望むなら、相手の首を撫でたつもりの指を、そのまま自分の喉に持ってきてもよいでしょう。

全員が別れを告げたら、ゲームは終了です。
ゲームが始まる前の人間関係に戻ってください。

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  クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
齋藤 路恵 Michie SAITO 作『私たちは愛し合う』はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。

【創作】この中にいる!

作者:ひげ  くまごろう

ある時、ある豪邸で、その豪邸の主人が殺された。
そして、関係者が集まり事件について話し合う事となった。

みなさんは豪邸の主人の関係者です。
これから話し合いを始めます。

まずは、みなさんがどのような人物なのか決めましょう。
役割が決まったら、話し合いを開始します。
主人が、いつ、どこで、どのように殺されたのか。
話し合いでまとめましょう。

話し合いがはじまり3分たったら、関係者たちは1度解散します。
そこで起こる第2の殺人。

ここで、誰が殺されるか投票します。
最も得票数の高い人物が被害者となり、被害者は幽霊となります。

再び3分間の話し合いを始めましょう。
真相を知っているのは幽霊だけです。(だからこそ、殺されてしまった)
しかし、人間は幽霊の存在に気付かず、前の3分間と同じように話し合います。
幽霊は、話し合いを眺めつつ、1人ボソボソとつぶやきます。
もしかしたら、その声は人間の耳にも届くかもしれません。
ただのそら耳かもしれませんが。

3分たったら、話し合いを終了します。
さて、どんな事件が起きたのでしょうか?

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2015/2/11 テストプレイヤーの一人による補足追加

ゲームポエム・アーカイブスの新作、『この中にいる!』これまででもっとも楽しみ方の見えにくい作品だと思います。「勝ち負けはない」「誰が犯人かを当てるのではない」この2つが基本的な前提となります。

『この中にいる!』はミステリの形式を借りつつ、終始わけのわからぬ状態にいることを楽しむドタバタ喜劇です。どう考えてもミステリーではない。何もかもあいまいなのですから。むしろ、この曖昧さ、わからなさこそがひげさんの真骨頂ではないかという気がします。

ただ、一方で最初から最後まで進行がないわけではないのですね。それだと本当に話が作れない。事実、テストプレイではこの茫漠としたイメージにどこまで進行システムを足すかが問題であったという気がします。話の途中で幽霊という非常に重要なキャラクターが出てきます。

幽霊は非常に重要なキャラクターです。幽霊はすべての真相を知っていますが、プレイヤーに介在することはできません。ゲーム中に突然全知の存在が現れる。「途中からゲームマスターが立つRPG」もないでしょうけど、それともちょっと違うような。

幽霊の言うことはすべて真実です。幽霊が「◯◯さんが犯人だったなー」と言えば、唐突にその人が犯人と確定します。その人自身もそれまで自分が犯人だったとは知りません。「言ったことは基本事実として採用される(YESになる)」というゲームポエムの原則を活かした設定です。

実際、プレイしてみると幽霊が出てからの後半3分で犯人確定までいかないこともありました。でも、犯人の確定が目的ではないので、時間が来たら終了です。とっちらかった伏線をとっちらかしたまま終了です。それでいいのです。わけのわからない状況を楽しむためのゲームなので。


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2015年1月24日土曜日

【創作】リプライでアドバイス

作者:中森白狼(SHIRO_DATURA_NAKAMORI)
■概要
 プレイヤーには今、軽い悩み事があります。決して深刻ではないのですが、それをSNSに投稿します。
 見知らぬ他人から、あなたの悩み事にいてのアドバイスがあります。
 そのアドバイスをみた別の人からもおせっかいなアドバイスがありますが、その人には最初の悩み事は見えません。
 そうやって無責任なアドバイスを繰り返して楽しむポエムです。
■人数
 4~10人
■用具
・大きめの付箋紙(ポストイット)
※できれば人数分のカラーバリエーションがあると可。1色でもOK
・筆記用具
■プレイ
0.各人は自分の色の付箋紙(色のバリエーションがなければ一色でも可)と筆記用具を用意します。プレイ時間を設定します。初めて遊ぶ場合は、参加人数×3~5分が適当でしょう。
1.最初のターンが開始されたら、付箋紙に、自分が抱えている軽い悩み事を書きます。最後には、自分の名前を書きます。このとき、付箋紙の端まで文字を書かないように気をつけましょう。また悩み事は、3行以内で終わる簡単なものにしてください。
例)
・僕には恋人ができません。どうしたらいいでしょうか? 一姫二太郎
・明日、試験なのに全然勉強できてない。どうしたらいい? メリー・ジェーン
・スマホをトイレに落として電源が入らない。だれか直し方を教えて。 スティーブ・J
・宇宙の端っこはどうなってるんだ? これを考え出すと夜も眠れない。助けてくれ! ガガー・リン
2.付箋紙に悩み事を書いたら、テーブルの中央に表を向けて提出します(最初のターン終わり)。
3.次のターンが始まったら、テーブルの中央にある自分の悩み事以外が書かれた付箋紙を選び手元に置きます。このとき、色のバリエーションがあると、選ぶときに簡単に自分の悩み事かどうかを見極めることができます。
4.受け取った付箋紙の内容を確認したら、自分の付箋紙にその悩み事についてのアドバイスを書きます。始まりは、悩み事を書いた○○さんへのアドバイスだとわかるように、@○○と書きます。そして最後には、自分の署名を書きます。このとき、元の悩み事に書かれているキーワードを使ってはいけません。
例)
「僕には恋人ができません。どうしたらいいでしょうか? 一姫二太郎」→「@一姫二太郎 私の占いによると今年中にあなたの願いは叶うと出てるわ。 アマンダ・D」
5.アドバイスを書いた付箋紙を悩み事の書いてある付箋紙の上に貼ります。正確に四隅を合わせる必要はありませんが、下の文章が読めないように丁寧に貼りましょう。
6.その重なった付箋紙を、テーブルの中央に提出します(2番目のターン終わり)
7.以下同様に、付箋紙の束を拾ってきては、アドバイスを書いた付箋紙をどんどん上に貼り付けていきます。このとき、気をつけなくてならないのは、自分の悩み事から端を発した付箋紙の束にはアドバイスをしてはいけないということです。
例)
「@一姫二太郎 私の占いによると今年中にあなたの願いは叶うと出てるわ。 アマンダ・D」→「@一姫二太郎 よかったじゃないか一姫二太郎。でも残念なことに、君の命は明日尽きると俺の預言書には書いてあるぜ。 ノストラダムス十三世」
8.偶然にも手を伸ばした付箋紙の束が、自分の悩み事へのアドバイスの束だった場合は、それにはアドバイスをせず、新たな付箋紙に悩み事を書くことができます。

9.こうして決められた時間が来たら、プレイを終了します。その時になって初めて、自分へのアドバイスを受け取り、それらのアドバイスを読むことができます。


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