2015年2月20日金曜日

【和訳】フィクション Fiction


作者:Elin Nilsen & Ole Peder Giaever
出典:Nørwegian Style「Fiction – a flexible freeform framework」https://norwegianstyle.wordpress.com/2013/08/21/fiction-a-flexible-freeform-framework/
訳:django


『フィクション』はさまざまな人数のプレイヤーに対応する、協力、即興的なフリーフォームゲームです。このゲームでは、プレイヤーがみんなで一緒に遊んでみたいゲームを描き出し、そしてプレイします!(※本文冒頭より)


 ここで紹介する『フィクション』は、本ブログに掲載しているゲームポエムと同様に、単体でも遊べるものです。そのルールの狙いは、
「みんなが集まったその場で、これからプレイするゲームを組み立てて実行する」
 ことにあります。
 これを作者たちは“フレキシブル・フリーフォーム・フレームワーク”と読んでいます。ゲームを作って遊ぶのに自在に使える枠組み、土台。『フィクション』はデザインすることも楽しみに含んだ、ツールでありゲームでもあるのです。

●フリーフォームって何?


 フリーフォームゲームを作って遊ぶ――そもそも「フリーフォーム」ってなんでしょうか?
 ロールプレイングゲームやストーリーゲームの一ジャンル、と思っていただくと話が早いかもしれません。フリーフォームはそれらの中でも「ルールや準備、決まり事が少ない」「即興で演技したり、場面や物語を演出したりを最重要視する」ゲームを指しています。実はゲームポエムもまたフリーフォームの範疇に入ります。フリーフォームで特に「ルール記述量が極少」で「プレイされる場面等の対象が小さく限定的」なものが“ポエム”であるとよく言われます。
 このジャンルに属する(とみなされる)ゲームは即興演劇やLARP(ライブアクションロールプレイ)の持つテクニックや知見から強く影響を受けており、プレイヤーたちは事細かなルールに基づくのではなく、大まかな約束事とコミュニケーションによる協力で、魅力的な物語の登場人物に扮してみたり、物語を即興で演出したりすることを試みます。


●どんなゲームができる?


『フィクション』をプレイすると、いろいろなテーマとルールを持つフリーフォームゲームが作れて、遊べます。この記事の末尾にあるリンクからダウンロードしてみてください(※6ページでレイアウト済みのPDFとTXT)。ルールの最後には『フィクション』で作られ、遊ばれたゲームの例が載っており、それらをそのまま遊ぶこともできます。
「マカロニ・ウェスタン」は西部劇、「ヴェガス・ウェディング」はシチュエーションコメディ、「恐怖の島」はサバイバルホラーです。それぞれのゲームでプレイヤーは正義の保安官、花嫁に突然「ノー!」と言われた花婿、バックパッカーの若者等に扮し、わずかな約束事に基づき即興で場面を演じ、演出し、物語を協力して作っていくことになります。

●大切なこと


 ここに『フィクション』を取り上げたのは、もちろんこれが興味深いゲームで、しかもゲームポエムともダイレクトに関連するジャンルであるからなのですが、もう一つ、大切なことがあります。
 ルールブックの2ページ目「基本原則」の中で、“カット”と“ブレーク”というセーフ(セーフティ)ワードの使用について触れられています。プレイヤーは、自分がプレイ中に居心地が悪くなりそう、不快になりそうだと予感したら「ブレーク!」と、限界に達したと感じたら「カット!」と発言して、身を守ったり危機から脱したりすることが可能とされます。誰かがプレイ中にセーフワードを発したら、他の人たちはその解決、解消を再優先にしなくてはならないと明記されています。
 フリーフォームは「その場の思いつきの自由な発言」が飛び交う場になり、たとえその確率は低くとも、誰かの、あるいは互いの気分を害する言葉の応酬にはならないと確約できません。また『フィクション』で作れるゲームは演劇のようにプレイヤーが動き回り、互いの体に触れることも想定していますから、なおのことセーフワードは重要です。複数人が集まって自由に発言してプレイするということの、素晴らしさの裏側にあるリスク、そしてそのために起きる問題への考え方と予防については、本ブログの「安全性の確保について」もぜひお読みください→こちら

 何を、どこまで語っていいのか? 他人の体への接触はどのあたりまで許されるのか? それらを事前に合意しておくこと、また、事前段階では本人も気づいていない“危険なポイント”もあるのが当然で、プレイ中に突然「これは自分には耐えられない」と自覚できることもありますから、いざという時にセーフワードで脱出できるようにしておくのが大切なのです。おそらくこれは、即興演劇やLARPを楽しんでいる人たち、または各種ワークショップでファシリテーターを務めていらっしゃる方々には周知のことと思われます。
 しかし、一般にゲームとは楽しいもので、かつこの種のゲームは「みんなで協力して」という前提があるだけに、問題点が死角に入りやすく、危機が起きていても長く放置し続けることになったり、それが顕在化した時に大慌てになってしまったり、ということはありえます。そうなったら楽しいはずのゲームが、とたんにつまらない、苦痛なものになってしまいます!
 ほんの少し、意識すべきところを意識し、先人の知恵を借りて工夫するだけで、ゲームはよりセーフティで、もっと身構えずリラックスして楽しめるものになる――『フィクション』はそうした意識の持ち方や、具体的にどうするべきか? を作者の側からルールとして提案した見事な一例であると考えます。


※PDFファイルは→こちら
※TEXTファイルは→こちら

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
ゲームポエム・アーカイブス django 訳『フィクション Fiction』はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
https://www.dropbox.com/s/tw1zwf7t958z0up/fiction.pdf?dl=0にある作品に基づいている。

2015年2月11日水曜日

【創作】私たちは愛し合う

作者:齋藤路恵


何人もの人と愛を交わし合い、ときに相手を傷つけるゲームです。

用意するもの 3人以上の人
時間 10分 または 一生

この世界において「愛する」とは相手の喉をつかむことです。
この世界では「憎む」こともまた相手の喉をつかむ形で表現されます。

時間が始まったら、近くにいる人に話しかけてください。
誰でもかまいません。
遠くの人でもいいです。

相手に話しかけて、自分との共通点を3つ見つけてください。
とても簡単なはずです。
「目が二つ。鼻が一つ。口が一つ」
もう見つかりました!

見つかったら、愛し合う条件が整いました。
条件さえ揃えば人は自動的に愛を感じます。

ここからは声を発してはいけません。
お互いに手を伸ばして、相手の喉をつかむ準備をしてください。
相手の目を見て、視線だけで喉をつかむタイミングを計ってください。
つかんだら、5秒間、そのままでいてください。
あなたたちは愛し合いました。

あなたは愛を拒むこともできます。
「これは口ではないのです」
そう言ってもかまいません。
相手がどれほど望もうと、あなたはそれを拒絶することができます。

愛を交わしたらそのまま別れてください。
そして、別の人に話しかけ、愛を交わしてください。

互いが望むなら、愛の誓いをすることもできます。
愛の誓いはその場の全員を証人にして行われます。
その場の全員に声をかけ、全員が見守る中で愛を交わしてください。
これで、誓いは成立です。

愛は3人以上で交わすこともできます。
愛の誓いも同様です。
3人以上で交互に喉をつかみあってください。

誓いを立てた後もこれまでと同じように、他の人に話しかけてください。
(話しかけずに済ますことはできません。必ず他の人に話しかけてください)
ただし、共通点が見つかっても、相手の喉をつかむことはできません。
共通点が見つかったら、自分で自分の喉をつかんでください。……できれば、息が少し苦しくなるくらいの強さで。
相手は誓いを立てた者の手の上に手を重ねるか、喉をつかむこと自体をあきらめてください。
誓いを立てた者は他の者に喉を触らせてはいけません。

誓いは破ることができます。
誓いを破るときは自身の手を完全に下ろし、相手に一方的に喉を触らせてください。この時は少し長め、10秒くらい、相手に喉をつかませてください。

相手に喉をつかませたら、誓いを立てた相手に裏切りを告げにいきます。
誓いを立てた相手に、自分と誓い合った相手の相違点を3つ告げてください。
一方的にまくし立てるのでかまいません。
誓いは片側から一方的に破棄できます。

10分後、この世界は終了します。
最後のメッセージを交わします。
最後に愛を交わした相手のところに行ってください。
もしかしたら、相手のところには他の人も来ているかもしれません。
仕方ありません。
順番に相手に別れを告げてください。

もし、あなたにどうしても会いたい人がいる場合、最後の人を裏切って他の人のところに行ってもかまいません。

最後のメッセージは実際には相手に触れずに行います。
これまでと同じように相手の目を見つめてください。それから、喉をつかむ代わりに空をつかんでください。
そこに相手の喉があるかのように、ていねいに、リアルにつかんでください。

このときに首の骨を折ったり、喉を握りつぶしたりしてもかまいません。
あるいは、指で喉を優しく撫でたり、くすぐったりするのでもかまいません。
あなたが望むなら、相手の首を撫でたつもりの指を、そのまま自分の喉に持ってきてもよいでしょう。

全員が別れを告げたら、ゲームは終了です。
ゲームが始まる前の人間関係に戻ってください。

※PDFファイルは→こらち
※TEXTファイルは→こちら


  クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
齋藤 路恵 Michie SAITO 作『私たちは愛し合う』はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。

【創作】この中にいる!

作者:ひげ  くまごろう

ある時、ある豪邸で、その豪邸の主人が殺された。
そして、関係者が集まり事件について話し合う事となった。

みなさんは豪邸の主人の関係者です。
これから話し合いを始めます。

まずは、みなさんがどのような人物なのか決めましょう。
役割が決まったら、話し合いを開始します。
主人が、いつ、どこで、どのように殺されたのか。
話し合いでまとめましょう。

話し合いがはじまり3分たったら、関係者たちは1度解散します。
そこで起こる第2の殺人。

ここで、誰が殺されるか投票します。
最も得票数の高い人物が被害者となり、被害者は幽霊となります。

再び3分間の話し合いを始めましょう。
真相を知っているのは幽霊だけです。(だからこそ、殺されてしまった)
しかし、人間は幽霊の存在に気付かず、前の3分間と同じように話し合います。
幽霊は、話し合いを眺めつつ、1人ボソボソとつぶやきます。
もしかしたら、その声は人間の耳にも届くかもしれません。
ただのそら耳かもしれませんが。

3分たったら、話し合いを終了します。
さて、どんな事件が起きたのでしょうか?

===

2015/2/11 テストプレイヤーの一人による補足追加

ゲームポエム・アーカイブスの新作、『この中にいる!』これまででもっとも楽しみ方の見えにくい作品だと思います。「勝ち負けはない」「誰が犯人かを当てるのではない」この2つが基本的な前提となります。

『この中にいる!』はミステリの形式を借りつつ、終始わけのわからぬ状態にいることを楽しむドタバタ喜劇です。どう考えてもミステリーではない。何もかもあいまいなのですから。むしろ、この曖昧さ、わからなさこそがひげさんの真骨頂ではないかという気がします。

ただ、一方で最初から最後まで進行がないわけではないのですね。それだと本当に話が作れない。事実、テストプレイではこの茫漠としたイメージにどこまで進行システムを足すかが問題であったという気がします。話の途中で幽霊という非常に重要なキャラクターが出てきます。

幽霊は非常に重要なキャラクターです。幽霊はすべての真相を知っていますが、プレイヤーに介在することはできません。ゲーム中に突然全知の存在が現れる。「途中からゲームマスターが立つRPG」もないでしょうけど、それともちょっと違うような。

幽霊の言うことはすべて真実です。幽霊が「◯◯さんが犯人だったなー」と言えば、唐突にその人が犯人と確定します。その人自身もそれまで自分が犯人だったとは知りません。「言ったことは基本事実として採用される(YESになる)」というゲームポエムの原則を活かした設定です。

実際、プレイしてみると幽霊が出てからの後半3分で犯人確定までいかないこともありました。でも、犯人の確定が目的ではないので、時間が来たら終了です。とっちらかった伏線をとっちらかしたまま終了です。それでいいのです。わけのわからない状況を楽しむためのゲームなので。


※PDFファイルは→こらち
※TEXTファイルは→こちら